本ページでも紹介済みだが、昨年9月に我々が石廊崎沖で9kgのベニアコウをキャッチしたスクープが脚光を浴び、周辺各港の船宿でも究極の深海釣りに挑戦する動きが見え始めた。
拙著「テル岡本のボトムフィッシング」の巻頭カラーを見て真っ先にベニアコウポイント探索に乗り出したのは同じく「ボトム…」のカラーページでアコウ・アラ釣りを紹介した南伊豆手石港の龍宝丸・坂倉天良船長。
情報は記事にある「1,000mライン」のみ。
このラインに魚探を入れ、自らの経験から「アコウの居そうな地形」を探す。そして遂に「ここぞ」と思われる「根」を発見したのが「ボトム…」発売から2ヶ月が過ぎた12月の下旬の事。
初挑戦では本命の姿を見る事は叶わなかったが、「100kg級のアブラボウズ」をキャッチし、「ここがポイント」を確信したと言う。
その後天候に恵まれず、2度目の挑戦は今年2月末。4名で投入した第一投に2本、4投目に2本(7〜9kg)の計4本。3月中旬にも3名で6〜9kg3本を上げ、いよいよ「本物」。
開拓されたばかりのポイントだけに「10kg超」に期待が膨らむと同時に、乗合船なので一人でも挑戦できるのも有り難い所だ。  



 3月20日は「南伊豆初」を実現した3人と船宿常連2名の5名での乗合出船となる。
予報通りとは言え、生憎の雨空の下、1,100mダチへ第一投。
東京タワー3本分の水深を釣るこの釣りは「着底迄15分、流し30分、巻上げ40分+α」と壮大なスケール。
一本のPEラインを通して千尋(せんじん)の底を探り、竿先に伝わる「アタリ」で魚種を判別する…正に深海釣り究極のロマン。
そぼ降る雨の中、第一声は胴の間から。ラインを送り出した竿先にもグヅグヅと追い喰いのアタリが伝わる。 対する僕のロッドにはいかにも怪しげなアタリ。
ホラアナゴ辺りの悪戯か。 「前から順番に巻こうか。」坂倉船長の合図に従って巻上げ開始。
胴のロッドだけが他とは一線を画する大負荷が掛っているが、本命に有るべき「抵抗」が全く見られない。
ベニアコウなら500m辺りで一暴れがあるのだが。 「オマツリしてるんじゃないかな。」船長の見立て通り、艫寄り二人とオマツリ。
残り僅かで処理を済ますと、ラインは一気に前方に走り始めた。 「出るぞッ!」遥か前方を見やると「ボカッ!」真紅の大輪がダークブルーの海面を割って飛び出す。
「おおーッ!」腹の底から湧き上がるような歓声が終わらぬ内に 「ボカッ!」と二つ目の花が咲く。
「ウォォーッ!」同乗者全員が声を上げる。 「一流し目は潮方の様子見だから」釣れなくて当り前、と嘯いていた船長だが、いきなり8.5kg・7.5kgのダブルが飛び出し、船中の興奮はピークに達する。 「次は自分に」と皆の顔に描いてある2投目。
再びアタリをキャッチするも、これもどう見ても本命とは遠い。残り250mで竿先が叩かれ、上がってきたのはオニヒゲ(トウジンと酷似するソコダラの一種)とシマガツオのダブル。
アタリで判っていたので落胆は無いのだが、思わずため息。 この流しの主役?となったのは「何か小さいアタリが有ったけど…」と半信半疑の巻上げだった同行者。隣のオマツリ解きを手伝っている内に巻上げが終り、仕掛が浮かび上がっている事に気付かない。 「出たぞッ!デカイッ!」の声に初めて顔を上げ、 「誰の魚ですかッ?」って、貴方のでしょっ!! 「アタリ、解んなかったかい?」と坂倉船長に冷やかされて何ともバツが悪そうだが、手繰り寄せた魚体は一目で10kg近いと知れるグラマラスボディ。
早速検量すると惜しくも10kgには届かなかったが、現時点船宿記録の9.5kg。羨望の眼差しが集まる。
3投目になると潮が早くなり、底ダチしたラインがすぐに吹き上げられ、前方に走ってしまう状況。全員が空振りに終わる。 この後突然潮が緩む事は考えられない。「2投目までに決めなかったのはマズかったか」と後悔しつつ、4投目に賭ける。 ここで予報通りに雨が上がり、雲間から陽差しが。泣いても笑ってもこの流しで終了だ。 吹き上げられたラインをリリースし、錘が底を叩く状況を維持。流しも終盤に差し掛かる頃、遂に本命と確信できるアタリをキャッチした。 程無く「潮が飛び過ぎだね。これ以上流しても…」と船長から巻上げの合図。 本命を確信する僕は、雨が上がると共に吹き出した北東風に大きくなったウネリに対応すべく、ドラグを甘めに調整。この巻上げだけはリールの前から離れずに見守る事に。
  長丁場の巻上げに加え、口周辺が比較的脆いベニアコウは500mラインの抵抗や大きなウネリで口切れする事がまま有る。 底を離れる際の重量感と500mラインでの抵抗が僕の見立てに間違いが無い事を証明する。 「出たぞッ!」艫寄りで先に声が上がった。常連氏が8kgを浮かべ、ご満悦。 「巻き始めた時に抵抗が有ったんで、ゆっくり巻くように指示したんだ。」と坂倉船長も笑顔を見せる。 いよいよラスト50m。何処で仕掛を止めるか、大いに迷ったが。 カウンターが0になる前に巻上げをストップし、腕組みをして沖目を見やる。 これが僕の「ベニアコウ宣言」で有る事を知っている仲間から「おおッ!」と声が上がる。 「ポカッ!」想像したよりも手前に魚が浮かんだ瞬間、「パチン!」思わず拍手を打つ。
75cm・5.5kgとサイズ的には少々物足りないが、アタリの時点から確信をもって対処した釣果である事への「納得」と、型を見られた安堵感が無意識に手を打たせたのだ。 流石に全員が型、とは行かなかったが、船中5本、9.5kgと二つの船宿記録を塗り替えたこの日、坂倉船長の表情もいつもに増して晴れ晴れとしていた。 「まだまだ始めたばかりで、他にもポイントは有ると思う。まだ手付かずみたいな物だけど、釣り潰さないようにこれからも新ポイントの探索をしないと。」と坂倉船長。 「ベニアコウが浮かんだ瞬間の感動は格別で、忘れられない。俺自身がハマってしまいそうだよ。」とこの釣りに意欲を見せる。
 深海釣りの龍宝丸に又一つ魅惑のメニューが加わった。夢の10kg超級が登場するのもそう遠い事ではないかもしれない。今後の展開に大いに期待したい。


 南伊豆 手石港

TEL 0558−62−4706

餌は各自持参。